さて今回はミキシングでやらないと決めている3つの判断についてお話ししていきたいと思います。
まず、前提なのですが私の中で「必ずやること」は決めていません。
自然と同じ工程や方法論になっている、ということはありますが、それはあくまでも音があって、それを聞いた判断で行なっています。
同じ理由で「やってはいけないこと」も基本的には無いと思っています。
作品が良い方向になれば、例え歪んでいてもノイズがあっても良いですし、セオリー通りにやる必要はありません。
ただ、やらないと判断していることはあります。
今回はその判断について、意図的にやらない3つのことを
理由と共に整理したいと思います。
1、ミキシングの現場で、作品を「好きか嫌いか」で判断すること
私は音楽が好きでこの仕事に就いたので、音楽的な好みがあったり、慣れているジャンルもあります。
この辺りは音楽をやっている人は誰でもそうだと思います。
ただ、エンジニアとして制作に携わる場合には、真逆のジャンルであったり、好み以外の作品の依頼が来た場合には
時としてそのような私的感情が邪魔をしてしまうことがあります。
作品の良いポイントを更に磨く
これが作品のオリジナリティーや強みを出す一番の武器だと思っているので
好きになり、良い部分を探す
初見でこれを行い、自分自身が作品の内側に入った気持ちになり、ミックスに臨みます。
自分の好みを基準にするのではなく、作品がすでに持っている強みを基準に判断するようにしています。
2、楽曲の方向性を自分の判断で変えてしまわないこと
どの楽曲でもジャンルや方向性に関してはあると思っています。
例えばジャンルは無い、といっても頭の中のイメージを音として構築した時点で
そこにはイメージという方向性が存在しています。
その、方向性に関して、私的判断で逸脱した変更は決して行なってはいけないと考えます。
良くなれば何を行なっても良いのですが、それは方法論や結果としてであって、
エンジニアとしては、あくまでも意思疎通を保ちクライアント(アーティスト)と向き合って行く必要があります。
私が音楽制作において、アーティストとのコミュニケーションを重要視している大きな理由の1つです。
エンジニアの役割は、方向性を作ることではなく、意図を崩さずに整えることだと思っています。
3、音作りにおいて、プリセットをそのまま使うこと
私のミキシングでは多くのプロセッシングでアナログを使用していますが、もちろんプラグインも使用しています。
特にデジタルでしかできない処理もあるので、使い分けているというのが現状です。
その際に音作りとしてプリセットは使用しません。
多くのエンジニアにとっては当たり前のことだと思っていますが、音の素材が毎回違うため、同じ処理はあり得ません。
例外として、リバーブ等の空間系に関してはプリセットから当たりをつけることはありますが、
それも最終的には微調整を行い、楽曲に合う形で仕上げていきます。
感じたことに対して処理を行う。
これがミキシングにおける最適解で、人がミックスをする意味だと思っています。
音楽制作においてもAIが用いられる時代になり、様々な議論がなされています。
私はAIに対して否定派でも肯定派でもありません。
進化の過程で出てきたイノベーションに対して否定も肯定もないと考えています。
例えばAIの作品を聞いて自分が何かを感じる事ができれば、その感じたことに意味があり、自分の表現に繋がります。
結果として自分のアウトプットにつなげることができれば、それがオリジナリティーになります。
全ては自分の周りにある道具で、自分の表現役立てば、決して交わることのない唯一のものが出来上がると考えています。
人が感じたことを表現し続ける限り、人に響く音楽を作ることができると考えています。
技術や手法がいくら進化しても、音を聴いて判断する行為だけは、人が担い続ける部分だと思っています。
