さて、今回はミックス時に音量バランスを決める際、私が基準としているポイントについて書いてみたいと思います。
音量バランスは最終的には感覚で決めています。ただ、その感覚を単に「経験」の一言で終わらせるのではなく、できる限り言語化するとどうなるのかを整理してみました。
小音量で俯瞰する
まず前提として、楽曲の基本的な音量バランスはアレンジ段階である程度決まっていると考えています。
そのため、ミックス前には必ずクライアントから届いたラフミックスを確認し、楽曲全体の大まかなバランスを把握します。
実際のバランス調整は、小さなスピーカー(スモールモニター)で行います。
音のディテールを詰める際にはラージモニターやヘッドフォンも有効ですが、音量バランスを判断する場面では、音の対比やセクションの移り変わりを俯瞰で捉える必要があります。そのため、あえてスモールモニターを選びます。
作業音量も常に小さめに設定しています。
ミックスは長時間に及ぶ作業です。大音量は耳の疲労を招き、判断を鈍らせます。それ以上に、小音量にすることで「本当に必要な音だけが残る」状態を確認することができます。
例えば、小音量で再生したときにボーカルが埋もれていないか。
ここで見ているのは単純な音量の大小ではありません。
主役としての“主張”が負けていないかどうかです。
さらに、メロディーとして自然に追えるかどうかも重要です。他の楽器によって認識しづらくなっていないかを確認します。
3つの判断軸
音量バランスを決める際、私が意識しているのは次の3点です。
1. 音楽の3要素への意識
音楽の3要素という言葉がありますが、ミックスの場合、私はこれらを「楽器の役割分担」として捉えています。
リズム、メロディー、ハーモニー。それぞれのトラックがどの役割を担っているのかを整理し、主役と脇役(リード、サブリード、バッキング)を明確にします。
役割が見えると、どのパートをどの程度前に出すべきかが自然と見えてきます。
展開によって主役が入れ替わることもあります。その移り変わりがスムーズに感じられるかどうかも、音量バランスの重要な判断材料になります。
2. リズムトラックの分析
リズムは楽曲の骨組みです。
キックやスネアといった基本ビートを作るトラック。
ハイハットやパーカッションのように細かく刻むトラック。
アクセントとなるシンバル類。
それぞれの役割と「打っている数の違い」を整理すると、ノリの構造が見えてきます。
ビート自体をミックスで変えることはできませんが、周波数帯のバランスは調整できます。
例えば、キックの低域が不足している場合、ビートとしては成立していても、楽曲全体に物足りなさが残ります。そのような場合にはEQやトリガーで補強します。
ここで重要なのは、単なる音量ではなく「帯域としての存在感」です。
3. リードパートとその他の楽器の関係
リードパートは、その楽曲の主役として機能するべき存在です。
ただし主役は常に固定ではなく、楽曲の流れの中で移り変わることもあります。
主役を最良のコンディションで聴かせるために行う処理は、必ずしも“足す”ことではありません。
むしろ、周囲を整理する「マイナスの思考」が役立つことが多いと感じています。
例えば、主役の帯域に他の楽器が被っている場合、主役を上げるのではなく、周囲を整理する。
マスキングを解消することで、無理なく主役が浮かび上がる状態を作ります。
まとめ
音量バランスを決める際に意識している判断軸は、
- 音楽の3要素(役割分担)の整理
- リズムトラックの構造と帯域の確認
- リードとその他の関係性の調整
この3点です。
これら3つの判断軸は、現時点で私が意識しているポイントです。
ただし、これらは今後のキャリアの中で変わっていく可能性もあります。
ミックスの目的は、音楽的にも音質的にも、楽曲を最大限に高めることだと考えています。
しかし、その「良い」という基準は人によって異なります。
だからこそ、セオリーは絶対的なものではなく、それぞれの中で成立するものだと思っています。
何を大切にするかによって、思考や方法論は変わり、結果として作品も変わります。
このような理由から、ミックスにおいて最も重要なのは機材やテクニックではなく、その源泉となる「思考」だと考えています。
